『黄帝内経』が教える自然と生命の法則

古典のことば
人以天地之氣生,四時之法成。(『黄帝内経・素問』)
書き下し文
人は天地の気を以て生じ、四時の法を以て成る。
現代語訳
人は天地自然の気によって生命を授かり、
四季の法則の中で育まれ、
その自然の営みとともに生きています。
はじめに
「今日は満月だから眠れなかった。」
「新月になると体調が変わる気がする。」
そんな話を耳にしたことはありませんか。
近年では、月の満ち欠けと睡眠、女性の月経周期、出産、気分の変化などについて語られる機会も増えてきました。
しかし、その多くは経験談として紹介されることが多く、
「東洋医学では、なぜ月が人体に影響すると考えるのか」
という根本について語られることは、あまりありません。
実は、『黄帝内経』には、
月と人体の関係を理解するための最も重要な考え方が記されています。
それが
「天人相応」
という思想です。
「天」とは何を意味するのでしょうか
現代では、
「天」という言葉を空や宇宙という意味で使うことが多いでしょう。
しかし、
『黄帝内経』でいう「天」は、
単なる空ではありません。
太陽
月
星辰
昼夜
四季
寒暑
風雨
つまり、
自然界そのものを意味しています。
「人」は自然の外には存在しない
東洋医学では、
人間は自然とは別の存在ではありません。
春には陽気が生じ、
夏には陽気が盛んになり、
秋には収まり、
冬には蔵されます。
人体も同じです。
朝は陽気が動き始め、
昼には活動が盛んとなり、
夜には陰へ帰って眠ります。
一年も、
一日も、
人体は自然と同じ法則の中にあります。
これが
天人相応
なのです。
だから「月」を診る
ここが今回一番伝えたい内容です。
太陽が四季をつくるなら、
月は約29.5日という周期で、
人体の気血や営衛の巡りに影響すると
『黄帝内経』は考えました。
つまり、
東洋医学が月を見る理由は、
神秘的だからではありません。
自然の法則を診ることが、
人体を診ることだからです。
この考え方が、
後に登場する
『霊枢・歳露論』
『霊枢・衛気行』
『霊枢・営衛生会』
『素問・八正神明論』
へと繋がっていきます。

伝統鍼灸との関係
伝統鍼灸では、
「天・地・人」
という考え方を非常に大切にします。
例えば、
季節によって脈は変化し、
気候によって腹証も変化し、
朝夕でも経気は異なります。
つまり、
患者さんだけを見るのではなく、
患者さんを取り巻く自然も診る。
これこそが、
日本伝統鍼灸が受け継いできた診察法なのです。
現代人へのメッセージ
便利になった現代では、
時計を見ることはあっても、
空を見る機会は少なくなりました。
しかし、
夜空の月は、
二千年前に『黄帝内経』を書いた医家たちが見上げた月と、
何一つ変わっていません。
忙しい毎日の中でも、
ほんの少し夜空を見上げ、
今日の月を眺めてみる。
それだけでも、
自然の時間を取り戻す第一歩になるのかもしれません。
古典を味わう
人以天地之氣生,四時之法成。
この一文は、
東洋医学の出発点です。
病気だけを見るのではなく、
人を見る。
人だけを見るのではなく、
自然を見る。
そして、
自然の法則の中で人体を理解する。
この視点があるからこそ、
東洋医学は二千年にわたり受け継がれてきました。
次回予告
第2回
「月が満ちれば気血も満ちる」
『黄帝内経・霊枢・歳露論』には、
「月が満ちるにつれて、人体の血気もまた満ちる」
という興味深い記述があります。
次回は、いよいよ原文を一字一句読み解きながら、「月齢と気血」の関係を詳しく学んでいきましょう。


