シリーズ最終回は、「下を温める」養生の実践編です。
今回ご紹介するのは足湯。しかも、ただのお湯ではなく、薄荷・松葉・生姜など薬草を組み合わせた、今年の夏に特に効く足湯のレシピです。
そしてこの足湯、実は江戸時代の儒学者・貝原益軒が『養生訓』の中ですでに伝えていた養生法とも深くつながっています。
貝原益軒が「足心」として記した湧泉
貝原益軒(1630〜1714)は、85歳という当時としては驚くべき長寿を全うした江戸の儒医です。その晩年に著した『養生訓』は、自らが実践した養生法を後世に伝えた名著として知られています。
その巻第三「慎病」の「導引の術」に、こんな一節があります。
「足の心(うら)湧泉の穴と云、片足の五指を片手にてにぎり、湧泉の穴を左手にて右をなで、右手にて左をなづること、各数十度。」
現代語に直すと——
足の裏の中心、土踏まずのくぼみを「湧泉の穴」という。片足の五本指を片手で握り、湧泉の穴を左手で右足、右手で左足をそれぞれ数十度ずつ撫でる。
益軒はこれを「術者のする導引の術」として紹介し、「暇のある者は毎日これをやるとよい」と締めくくっています。
「足心」という言葉で足の裏の中心を指し、そこに湧泉の穴があると平易に記した益軒。300年以上前に書かれた言葉が、2026年の夏の養生にそのまま通じるのは感慨深いものがあります。

足湯は「撫でる」の現代的な実践
益軒が教えた「湧泉を撫でる」という手技と、足湯の目的は同じです。
湧泉を温め、刺激することで——
| 効能 | 東洋医学的な解釈 |
|---|---|
| 上の熱を下ろす | 上実下虚・冷えのぼせの改善 |
| 血行促進 | 寒邪による気血の滞りを解く |
| 発汗・解表 | 体表の邪気を軽く散らす |
| 安神・鎮静 | 心の熱を冷まし、動悸・不眠・不安を和らげる |
| 腎を温める | 本年の歳運(水運太過)による腎の冷えを改善する |
足湯に浸かりながら湧泉を親指で押すと、益軒の「撫でる」と足湯を同時に実践できます。
足湯に入れると効果が高まるもの
今年の夏至前後は「上半身の熱を下ろし、下半身の冷えを温める」ことが養生の基本。足湯に薬草を加えることで、その効果をさらに引き出すことができます。
薄荷(はっか/ミント)
性質:涼性・辛味
夏至前後の「火が三重に重なる」時期に特に向いています。頭部や上半身にこもった熱を散らし、気を巡らせます。のぼせ・目の充血・頭痛を感じるときに。
使い方:乾燥薄荷葉ひとつかみをお茶パックに入れて足湯へ。生葉をそのまま浮かべても爽やかです。
ポイント:涼性のため、冷え症が強い方は生姜と組み合わせると良いバランスになります。
松葉(まつば・まつのは)
性質:温性・苦甘味
古来より「不老長寿」の薬草として珍重されてきた松葉。血行を促進し、関節のこわばりを和らげます。下半身の冷えと水の滞りを温め流す働きがあります。益軒も松を大切にしていたことが著書からうかがえます。
使い方:生の青松葉をひとつかみ、そのまま桶に入れて浸かる。足で踏みながら浸かると松脂の香りが広がり、気も巡ります。
生姜(しょうが)
性質:温性・辛味
強力に体を温め、寒邪を散らす。2026年の「水運太過」対策として最も基本的な素材です。薄荷の涼性を和らげる役割も担います。
使い方:薄切り生姜5〜6枚、またはすりおろしてお茶パックに入れて。
塩(あら塩)
性質:寒性・咸味
東洋医学では、咸(塩辛い)味は腎に入るとされます。腎を補いながら、皮膚の清潔を保ち、殺菌・消炎の作用も。
使い方:大さじ1〜2杯。塩+生姜の組み合わせは温補腎陽(腎の陽気を補い温める)の効果が高まります。
よもぎ
性質:温性・苦辛味
寒湿を取り除き、経絡を温める薬草として古来から用いられてきました。実はお灸に使う「艾(もぐさ)」の原料もよもぎです。腰冷えや婦人科系の不調が気になる方に。
使い方:乾燥よもぎをお茶パックに入れて。

今年の夏のおすすめ組み合わせ
| 状態 | おすすめの組み合わせ |
|---|---|
| のぼせ・頭が熱い | 薄荷+塩 |
| 下半身が冷える | 松葉+生姜 |
| 冷えのぼせ(上熱下寒) | 薄荷+生姜 |
| 全身の疲労・むくみ | よもぎ+塩 |
| バランスよく整えたい | 松葉+薄荷+塩 |
足湯の基本作法
湯温 :40〜42℃(夏至前後はやや低め40℃で)
時間 :15〜20分
水位 :くるぶしの上、三陰交が浸かるくらいまで
タイミング :就寝1時間前が最適
終わり方 :足を拭いたらすぐ靴下を履き、冷やさない
浸かりながら湧泉を親指でゆっくり押す——これが益軒の「撫でる」と足湯を重ねた、今年の夏の養生の形です。
おわりに
三回にわたってお伝えしてきた「2026年夏至の養生」をまとめると——
- 今年の夏は「火が三重に重なる」特殊な時期。急激な寒暖差と上実下虚に要注意
- 「上を冷まし、下を温める」が養生の基本方向
- 貝原益軒が伝えた「足心(湧泉)」を温め、薬草の足湯でその効能を引き出す
難しいことは何もありません。就寝前の15分、桶にお湯を張って松葉や薄荷を浮かべる。それだけで、300年前の知恵と今年の運気の両方に応じた養生になります。
どうか今年の夏を、「急がず・冷やさず・温めすぎず」のバランスで穏やかにお過ごしください。
【2026年 夏至の養生】シリーズ 完
- 第1回:火が三重に重なる夏――干支が告げる今年の気候とからだへの影響
- 第2回:急激な寒暖差への対応――食事・入浴・ツボ養生
- 第3回:貝原益軒も伝えた「足心」の養生――薄荷・松葉・生姜の足湯レシピ


