【第0回】眠りのその先へ――『張氏医通』養生シリーズを始めます
前回までの「睡眠養生シリーズ」では、4つの文献から紹介してきました。いずれも中医学や東洋思想を背景に持つ、中国および日本の歴史的な養生(健康法・長寿法)・心身修養に関する代表的な古典です。
それぞれの概要は以下の通りです。
『遵生八箋』(じゅんせいはっせん) 明代の文人・高濂(こうれん)によって1591年に著された中国の書物。日常生活の修養、養生から、文人の趣味生活、歴代の隠者の事跡まで幅広く網羅した総合的な生活・養生論です。
『養生訓』(ようじょうくん) 江戸時代の儒学者・貝原益軒(かいばらえっけん)による日本を代表する養生書。儒学や中医学の知識に基づき、心身の健康を保つための具体的な実践法(食事、運動、心の持ち方など)を分かりやすく説いています。
『夜船閑話』(やせんかんわ) 江戸中期の禅僧・白隠慧鶴(はくいんえかく)によって書かれた内観法・健康法の書。瞑想によって「気のめぐり」を整え、心身の不調や病を治癒・克服するための実践的なメソッドが記されています。
『老老恒言』(ろうろうこうげん) 清代の学者・曹庭棟(そうていとう)がまとめた高齢者向けの養生専門書。食事や寝起き、日常のちょっとした身体の動かし方など、高齢者の特性に合わせた健康法を具体的に解説しています。

などの古典をもとに、
・寝室環境
・枕や寝具
・寝姿
・呼吸法
・観想法
・方角
など、「どう眠るか」という睡眠の技法について学んできました。
古人たちは、眠りを単なる休息ではなく、生命を養う大切な時間と考えていました。
光を避けること。
風を防ぐこと。
頭を冷やし足を温めること。
心を静めてから眠ること。
こうした教えは、現代の睡眠科学から見ても理にかなったものが少なくありません。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
環境を整えても眠れない人がいます。
寝具を変えても眠れない人がいます。
スマートフォンを控えても眠れない人がいます。
なぜでしょうか。
東洋医学は、その理由を身体の内側に求めます。
衛気はなぜ夜になっても陰に入れないのか。
なぜストレスは眠りを妨げるのか。
なぜ疲れているのに眠れないのか。
なぜ胃腸の不調が眠りに影響するのか。
こうした問いに真正面から向き合った名著が、清代の医家・張璐(石頑老人)の著した『張氏医通』です。
『張氏医通』は、古典医学の理論を整理しながら、実際の臨床経験を豊富に盛り込んだ実践的な医学書として知られています。
そこには現代人が抱える、
・不眠
・ストレス
・慢性疲労
・胃腸虚弱
・生活習慣病
などにも通じる鋭い洞察が数多く残されています。
今回から始まる新シリーズでは、
「なぜ眠れなくなるのか」
を入口として、
気・血・津液
陰陽
五臓六腑
衛気と営気
といった東洋医学の知恵を、日々の暮らしと結び付けながら学んでいきます。
養生とは、病気になってから行うものではありません。
毎日の暮らしの中で、
自分の身体の声に耳を傾けること。
それこそが養生の第一歩です。
次回は、
「衛気はなぜ陰に入れないのか
― 『張氏医通』が明かす不眠の真実」
をテーマにお届けします。
眠りとは何か。
そして、なぜ人は眠れなくなるのか。
『張氏医通』の世界を一緒に旅していきましょう。



