『張氏医通』養生シリーズ
はじめに
前回までの「睡眠養生シリーズ」では、 『遵生八箋』『養生訓』『夜船閑話』『老老恒言』 などの古典をもとに、
- 寝室環境
- 寝具
- 寝姿
- 呼吸法
- 観想法
- 方角
など、「どう眠るか」 について学んできました。

しかし、
- 環境を整えても眠れない人がいます。
- 寝具を変えても眠れない人がいます。
- 心を落ち着けようとしても眠れない人がいます。
なぜでしょうか。
東洋医学は、その原因を身体の内側に求めます。
今回からは清代の名医・張璐(石頑老人)の『張氏医通』を手がかりに、
「なぜ眠れなくなるのか」
を探っていきたいと思います。
衛気は夜どこへ行くのか
『霊枢・大惑論』には、こう記されています。
衛気は昼は陽を行き、夜は陰を行く
昼間は身体の表面を巡り、活動を支える衛気。
夜になると衛気は体内へ入り、陰分に帰ることで人は眠りにつきます。
東洋医学において睡眠とは、脳を休めることではなく、
「陽が陰に帰ること」
なのです。
不眠とは「陽が帰れない状態」
『張氏医通』では、不眠の根本を
衛気が陰に入ることができない状態
と捉えています。
本来ならば夜になると、
- 陽気は静まり
- 神(こころ)は安らぎ
- 魂は肝に帰ります
しかし、何らかの理由で衛気が陽分に留まると、目は閉じても眠れません。
心は落ち着かず、考え事が止まらず、眠りは浅くなります。
現代で言えば、交感神経が過剰に興奮した状態にも似ています。

老人はなぜ眠れなくなるのか
『張氏医通』はさらに、老人の不眠について興味深い説明をしています。
若者は気血が盛んであり、昼は活動し、夜は深く眠ることができます。
しかし高齢になると、
気血は衰え、営気は少なくなる
そのため昼間も活力が乏しく、夜もまた眠る力そのものが不足します。
つまり老人の不眠は、興奮しすぎて眠れないのではなく、
眠るための気血が足りない
という場合があるのです。
気血衰弱と現代人の不眠
これは現代人にもよく見られます。
- 疲れているのに眠れない
- 眠っても疲れが取れない
- 夜中に何度も目が覚める
このような状態は、単なるストレスだけではなく、長年の過労や睡眠不足によって気血が消耗した結果かもしれません。
『張氏医通』では、こうした虚労による不眠に対して、
酸棗仁湯(さんそうにんとう)
などを用いて、まず気血を養うことを重視しています。

まとめ
今回学んだことを整理します。
| 状態 | 内容 |
|---|---|
| 正常な睡眠 | 衛気が陰に帰り、陽が静まる |
| 興奮型の不眠 | 衛気が陽分に留まり、心神が乱れる |
| 虚弱型の不眠 | 気血が不足し、眠る力そのものがない |
睡眠養生シリーズでは「どう眠るか」を学んできました。
そして今回からは「なぜ眠れなくなるのか」を学んでいきます。
『張氏医通』が教える不眠の本質は、単なる脳や神経の問題ではなく、
衛気・陰陽・気血の失調
にあります。
眠りとは、陽が陰に帰る営み。 不眠とは、その帰るべき道を見失った状態。

次回予告
第2回 鬱はなぜ眠りを妨げるのか
ストレスや悩みは、どのようにして眠りを乱すのでしょうか。
次回は『張氏医通』の「鬱門」を手がかりに、
肝気鬱結と不眠の関係
を見ていきます。
「気が滞る」とはどういうことか。そして心が安らぐとはどういう状態なのか。
『張氏医通』養生シリーズ 第1回 了


