七夕・松竹梅・竹の花に見る、竹と「天」との約束
これまでの3回で、竹は「境界」であり、「通路」であり、「器」である――という姿を見てきました。
竹は、地に根を張りながら、天へ向かって伸びていく植物です。
だからこそ、日本人は昔から、竹に「天とつながる力」を重ねてきたのかもしれません。
今回は、竹と「天」との関わりが色濃く残る、三つの言い伝えを見ていきましょう。
七夕の竹――願いを、天へ届ける通路
7月7日、七夕。
短冊に願いごとを書き、それを竹に結んで飾る。
多くの人が、子どものころに経験した、あの光景です。
なぜ、笹や竹に願いを結ぶのでしょうか。
竹は、地中に根を張りながら、まっすぐに天へ向かって伸びる植物です。しかも、その内部は空洞で、風が通ると、サワサワと音を立てる。
第1回・第2回で見てきたように、竹は、
- 地から水を受け、
- 身体を通し、
- 天へ向かって伸びていく
という、「地から天への通路」としての姿を持っていました。
七夕の竹に短冊を結ぶという行為も、この竹の性質と重なります。
人間の願いという、地上で生まれた小さな思いを、竹という「天への通路」に託す。
風が吹けば、竹の葉と一緒に短冊も揺れます。その揺れが、まるで願いを少しずつ天へ送り届けているようにも見えてきます。
竹は、ここでもまた、
「地上の思いを、天へ運ぶ器」
として機能しているのです。
松竹梅――しなやかであることの強さ
竹は、正月の門松や、慶事の場でもよく目にする植物です。
「松竹梅」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。
冬の厳しい寒さの中でも、
- 松は、緑を絶やさず
- 竹は、雪の重みにしなっても折れず
- 梅は、まだ寒い時期に、他の花に先駆けて咲く
この三つは、古くから「歳寒三友(さいかんさんゆう)」と呼ばれ、逆境の中でも生命力を失わない存在として、絵画や文様、慶事の飾りに使われてきました。
竹がここで象徴しているのは、
硬さではなく、しなやかさ
です。
第2回で触れたように、竹の内部は空洞です。この「空いている」という構造こそが、竹に「しなっても折れない」強さを与えています。
強い風が吹けば、竹は大きくしなります。
しかし、簡単には折れません。
そして、風が止めば、また元の姿勢に戻っていく。
これは、竹という植物そのものの物理的な特徴であると同時に、人間の生き方に対する一つの教えとしても、長く語り継がれてきました。
「強さとは、決して硬さではない。しなやかに受け止め、また立ち上がる力である。」
松竹梅の竹は、この考え方を、正月や慶事という「人生の節目」に、静かに私たちへ伝えてくれているのかもしれません。
竹の花――数十年に一度、天が見せる異変
竹には、もう一つ、大きな謎があります。
竹は、ほとんど花を咲かせません。
正確には、咲かせないわけではなく、めったに咲かせないのです。
竹の開花周期は、種類によって異なりますが、モウソウチクでおよそ60年、マダケでおよそ120年ともいわれています。実際の周期は個体差もあり、はっきりとは分かっていない部分も多いのですが、いずれにしても、人の一生の中で一度も目にすることがない、というのが普通です。
だからこそ、竹の花が咲くというニュースが流れると、それは大きな驚きとして扱われます。
そして、昔から、この現象には、こんな言い伝えがつきまといます。
「竹の花が咲くと、不吉なことが起こる」
なぜ、そのような言い伝えが生まれたのでしょうか。
一つの理由は、竹という植物の不思議な性質にあります。
竹は、地下茎でつながったクローン群として広がっていく植物です。花が咲くとき、同じ地下茎でつながった竹林全体が、まるで申し合わせたかのように一斉に開花し、そして――開花した株は、その後、枯れてしまうのです。
普段はあれほど旺盛に生命力を発揮し、次々と新しい竹を伸ばしていく竹林が、花を咲かせた途端に、一斉に枯れていく。
その光景が、人々に「何か大きな異変の前触れではないか」という感覚を与えたのだろうと考えられています。
もちろん、これは科学的に見れば、竹という植物が持つ「一斉開花・一斉枯死」という生態の一つであり、必ずしも人間界の吉凶と結びつくものではありません。実際、竹の花が咲いた年は豊作につながるという言い伝えも一部には残っており、不吉さだけが語られてきたわけでもないのです。
しかし、ここで考えてみたいのは、
竹は、めったに姿を見せない「天の合図」のように扱われてきた
ということです。
普段は地に根を張り、静かに天へ伸びているだけの竹。
その竹が、数十年に一度、思いがけない姿――花――を見せる。
それを、人々は「天からの何らかの知らせ」として受け止めてきました。
竹が、ここでもまた、地と天の間に立つ植物として、人間の想像力の中で特別な位置を占めていたことがわかります。

まとめ――竹は、天とのやり取りの中に生きている
今回見てきた三つの言い伝えを並べてみましょう。
| 行事・言い伝え | 竹の役割 |
|---|---|
| 七夕 | 地上の願いを、天へ届ける通路になる |
| 松竹梅 | しなやかに受け止め、また立ち上がる強さを示す |
| 竹の花 | めったに見せない姿によって、天からの合図と受け止められる |
七夕では、竹は「願いを送る」役割を担い、
松竹梅では、竹は「天からの試練を受け止める」役割を担い、
竹の花では、竹自身が「天からの合図」そのものとして受け止められている。
竹は、常に天との関わりの中で語られ続けてきた植物なのです。
次回、第5回では、竹が人間の「日々の暮らしと修行」の中で、どのように使われてきたのかを見ていきます。
尺八、茶道の竹、そして神社の竹箒――。
竹は、私たちのすぐそばで、静かに「清め」と「通す力」を担い続けています。


