第7回 『張氏医通』に学ぶ現代の生活習慣病

血圧・肥満・不眠はなぜ起こるのか

『張氏医通』養生シリーズ


目次

はじめに

これまで6回にわたって、

  • 衛気と陰陽(第1回)
  • 肝気鬱結(第2回)
  • 脾胃と痰飲(第3回)
  • 虚労と陰虚(第4回)
  • 命門火と相火(第5回)
  • 百病皆痰(第6回)

を学んできました。

今回はこれらを統合し、現代人が最も悩む病、

高血圧・肥満・不眠

が東洋医学的にどのように理解されるのかを見ていきます。

『張氏医通』の知恵は、300年の時を経た今も、現代病の本質を鋭く照らしています。


類中風――現代の脳卒中・高血圧を考える

『張氏医通』は「類中風(るいちゅうふう)」という病を詳しく論じています。

類中風とは、突然の手足のしびれ・麻痺・言語障害・意識障害など、現代で言う脳卒中に相当する病態です。

張璐はその原因を、外から侵入する「風邪(ふうじゃ)」ではなく、

内側から生まれる「内風(ないふう)」にある

と見ました。

内風が生まれる根本は、

  • 肝陽上亢(かんようじょうこう) ― 肝の陽気が過剰に上昇する
  • 真陰不足(しんいんふそく) ― 身体の根本的な陰液が不足する
  • 痰火上昇 ― 痰と火が上に昇り、頭部を乱す

これらは現代医学で言う高血圧・動脈硬化・脳血管疾患の発症メカニズムと、驚くほど重なります。


肝陽上亢――現代人の高血圧

肝陽上亢とは、

陰が不足したために陽を制御できなくなり、肝の陽気が上に昇った状態

です。

症状として、

  • 頭痛・頭重感・首のこり
  • のぼせ・顔が赤くなる
  • 怒りやすくなる
  • めまい・耳鳴り
  • 夜になっても興奮がおさまらず眠れない

これらは、現代医学的な高血圧の症状と非常によく重なります。

現代人が高血圧になりやすい背景には、

  • 慢性ストレスによる肝気の鬱結・化火
  • 睡眠不足・過労による陰虚
  • 塩分・アルコール・辛いものによる内熱の蓄積

があり、これらがすべて「肝陽上亢」を生み出す土台となります。


痰火と肥満

肥満と痰は、東洋医学では切り離せない関係にあります。

肥人多痰(ひじんたたん)――肥えた人は痰が多い

という格言があるほどです。

現代の肥満の多くは、

  • 飲食不節による脾胃の損傷
  • 脾胃の弱りによる痰濁の蓄積
  • 運動不足による気の停滞

によって生まれます。

さらに痰が熱と結びついて痰火になると、

  • 慢性炎症
  • インスリン抵抗性
  • 血圧の上昇
  • 睡眠時無呼吸

といった現代の生活習慣病と重なる病態が連鎖的に生まれます。

肥満は「食べすぎ」の問題ではなく、脾胃という根本の問題なのです。


真陰不足と現代人の消耗

『張氏医通』が特に重視するのが、**真陰不足(しんいんふそく)**です。

真陰とは、腎に宿る根本的な陰液であり、

  • 全身の臓腑を潤す源
  • 相火・肝陽を制御する力
  • 老化のスピードを左右する基盤

です。

現代人は、真陰を消耗しやすい生活を送っています。

現代の習慣東洋医学的影響
慢性的な睡眠不足陰液の回復が妨げられる
深夜まで働く・スマホを見る陰の時間帯に陽を使い続ける
過度な性生活・運動腎精を消耗する
ストレスと過労の蓄積気血とともに陰を傷める
加工食品・辛いものの多食内熱が陰液を蒸発させる

真陰が不足すると、相火が制御を失い浮き上がります。

その結果が、高血圧・不眠・更年期障害・慢性疲労として現れるのです。


過労とストレス――現代病の二大根因

『張氏医通』の時代と現代で最も変わったのは、過労とストレスの質と量です。

張璐は農耕社会を生きた人々の病を診ていました。しかし彼が記した「思慮過度・労倦・飲食不節」による病は、現代社会にそのまま当てはまります。

むしろ現代は、

  • 情報過多による思慮の過剰消耗
  • 24時間働ける環境による労倦の蓄積
  • 加工食品・外食による飲食の乱れ

が、かつてよりはるかに深刻な形で存在します。

東洋医学が「内因」と呼ぶ、怒り・悲しみ・思い悩みという感情の消耗は、現代社会においてより大きな病因となっています。


現代人へのメッセージ

高血圧・肥満・不眠は、それぞれ別々の病ではありません。

東洋医学の視点から見れば、

脾胃の弱り・陰の消耗・相火の乱れ・痰火の蓄積

という共通の根から生まれた、異なる枝葉にすぎません。

だからこそ、どれかひとつを薬で抑えても、根本が変わらなければ別の症状が生まれます。

『張氏医通』が教えるのは、

病の根を見よ。枝葉だけを刈っても、根が残れば必ず芽吹く

ということです。

養生とは、この根に水をやり、土を整える営みです。


まとめ

  • 類中風(脳卒中)の根本は外風ではなく、肝陽上亢・真陰不足・痰火という内因
  • 肝陽上亢は現代の高血圧と深く重なり、ストレス・陰虚・内熱が土台となる
  • 肥満の根本は脾胃の弱りによる痰濁の蓄積であり、痰火が生活習慣病を連鎖させる
  • 真陰不足は睡眠不足・過労・加齢によって進行し、あらゆる慢性病の基盤となる
  • 過労とストレスは東洋医学的にも最大の病因であり、現代においてより深刻

次回予告

第8回 石頑老人の養生哲学――医門十戒と『張氏医通』総まとめ

シリーズ最終回は、張璐という医師の生き方そのものに迫ります。

「医不執方(いふしっぽう)」「中庸」「偏らない生き方」――

養生とは何か、を問い直す最終章です。


『張氏医通』養生シリーズ 第7回 了

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