血圧・肥満・不眠はなぜ起こるのか
『張氏医通』養生シリーズ
はじめに
これまで6回にわたって、
- 衛気と陰陽(第1回)
- 肝気鬱結(第2回)
- 脾胃と痰飲(第3回)
- 虚労と陰虚(第4回)
- 命門火と相火(第5回)
- 百病皆痰(第6回)
を学んできました。
今回はこれらを統合し、現代人が最も悩む病、
高血圧・肥満・不眠
が東洋医学的にどのように理解されるのかを見ていきます。
『張氏医通』の知恵は、300年の時を経た今も、現代病の本質を鋭く照らしています。

類中風――現代の脳卒中・高血圧を考える
『張氏医通』は「類中風(るいちゅうふう)」という病を詳しく論じています。
類中風とは、突然の手足のしびれ・麻痺・言語障害・意識障害など、現代で言う脳卒中に相当する病態です。
張璐はその原因を、外から侵入する「風邪(ふうじゃ)」ではなく、
内側から生まれる「内風(ないふう)」にある
と見ました。
内風が生まれる根本は、
- 肝陽上亢(かんようじょうこう) ― 肝の陽気が過剰に上昇する
- 真陰不足(しんいんふそく) ― 身体の根本的な陰液が不足する
- 痰火上昇 ― 痰と火が上に昇り、頭部を乱す
これらは現代医学で言う高血圧・動脈硬化・脳血管疾患の発症メカニズムと、驚くほど重なります。
肝陽上亢――現代人の高血圧
肝陽上亢とは、
陰が不足したために陽を制御できなくなり、肝の陽気が上に昇った状態
です。
症状として、
- 頭痛・頭重感・首のこり
- のぼせ・顔が赤くなる
- 怒りやすくなる
- めまい・耳鳴り
- 夜になっても興奮がおさまらず眠れない
これらは、現代医学的な高血圧の症状と非常によく重なります。
現代人が高血圧になりやすい背景には、
- 慢性ストレスによる肝気の鬱結・化火
- 睡眠不足・過労による陰虚
- 塩分・アルコール・辛いものによる内熱の蓄積
があり、これらがすべて「肝陽上亢」を生み出す土台となります。
痰火と肥満
肥満と痰は、東洋医学では切り離せない関係にあります。
肥人多痰(ひじんたたん)――肥えた人は痰が多い
という格言があるほどです。
現代の肥満の多くは、
- 飲食不節による脾胃の損傷
- 脾胃の弱りによる痰濁の蓄積
- 運動不足による気の停滞
によって生まれます。
さらに痰が熱と結びついて痰火になると、
- 慢性炎症
- インスリン抵抗性
- 血圧の上昇
- 睡眠時無呼吸
といった現代の生活習慣病と重なる病態が連鎖的に生まれます。
肥満は「食べすぎ」の問題ではなく、脾胃という根本の問題なのです。
真陰不足と現代人の消耗
『張氏医通』が特に重視するのが、**真陰不足(しんいんふそく)**です。
真陰とは、腎に宿る根本的な陰液であり、
- 全身の臓腑を潤す源
- 相火・肝陽を制御する力
- 老化のスピードを左右する基盤
です。
現代人は、真陰を消耗しやすい生活を送っています。
| 現代の習慣 | 東洋医学的影響 |
|---|---|
| 慢性的な睡眠不足 | 陰液の回復が妨げられる |
| 深夜まで働く・スマホを見る | 陰の時間帯に陽を使い続ける |
| 過度な性生活・運動 | 腎精を消耗する |
| ストレスと過労の蓄積 | 気血とともに陰を傷める |
| 加工食品・辛いものの多食 | 内熱が陰液を蒸発させる |
真陰が不足すると、相火が制御を失い浮き上がります。
その結果が、高血圧・不眠・更年期障害・慢性疲労として現れるのです。
過労とストレス――現代病の二大根因
『張氏医通』の時代と現代で最も変わったのは、過労とストレスの質と量です。
張璐は農耕社会を生きた人々の病を診ていました。しかし彼が記した「思慮過度・労倦・飲食不節」による病は、現代社会にそのまま当てはまります。
むしろ現代は、
- 情報過多による思慮の過剰消耗
- 24時間働ける環境による労倦の蓄積
- 加工食品・外食による飲食の乱れ
が、かつてよりはるかに深刻な形で存在します。
東洋医学が「内因」と呼ぶ、怒り・悲しみ・思い悩みという感情の消耗は、現代社会においてより大きな病因となっています。

現代人へのメッセージ
高血圧・肥満・不眠は、それぞれ別々の病ではありません。
東洋医学の視点から見れば、
脾胃の弱り・陰の消耗・相火の乱れ・痰火の蓄積
という共通の根から生まれた、異なる枝葉にすぎません。
だからこそ、どれかひとつを薬で抑えても、根本が変わらなければ別の症状が生まれます。
『張氏医通』が教えるのは、
病の根を見よ。枝葉だけを刈っても、根が残れば必ず芽吹く
ということです。
養生とは、この根に水をやり、土を整える営みです。
まとめ
- 類中風(脳卒中)の根本は外風ではなく、肝陽上亢・真陰不足・痰火という内因
- 肝陽上亢は現代の高血圧と深く重なり、ストレス・陰虚・内熱が土台となる
- 肥満の根本は脾胃の弱りによる痰濁の蓄積であり、痰火が生活習慣病を連鎖させる
- 真陰不足は睡眠不足・過労・加齢によって進行し、あらゆる慢性病の基盤となる
- 過労とストレスは東洋医学的にも最大の病因であり、現代においてより深刻

次回予告
第8回 石頑老人の養生哲学――医門十戒と『張氏医通』総まとめ
シリーズ最終回は、張璐という医師の生き方そのものに迫ります。
「医不執方(いふしっぽう)」「中庸」「偏らない生き方」――
養生とは何か、を問い直す最終章です。
『張氏医通』養生シリーズ 第7回 了


