シリーズ最終回となる今回は、『本草綱目』に記された具体的な梨の使い方と、意外と知られていない花・葉・樹皮の効能、そして現代の季節養生における梨の活かし方についてご紹介します。
昔ながらの「梨レシピ」いろいろ
『本草綱目』の「附方(処方例)」には、梨を使った素朴な民間療法がいくつも紹介されています。 現代の感覚で見ても、なるほどと思わされるものばかりです。
喉の渇きに(消渇飲水) 香水梨や鵝梨、江南の雪梨などを絞り、蜂蜜と一緒に煮詰めて瓶に保存しておく。喉が渇いたときにお湯や水で薄めて飲む、というシンプルな養生法です。
急な咳に(猝得咳嗽) 良質な梨の芯を取ってすりつぶし、絞り汁に胡椒を加えて一煮立ちさせ、滓を取り除いてから水飴を溶かし込み、少しずつ含んで飲み下す。あるいは梨に小さな穴を50個ほど開けて一つひとつに胡椒を一粒ずつ詰め、小麦粉の生地で包んで灰火で蒸し焼きにする方法も紹介されています。いずれも「冷めてから」食べるのがポイントで、熱いまま食べるとかえって肺を傷め咳が悪化するため注意するようにと念を押されています。
痰がからんで息苦しいときに(痰喘気急) 梨の中身をくり抜き、黒豆を詰めて蓋をし、糠火でじっくり蒸し焼きにしてから餅状につぶして毎日食べる、という方法。
急に声が出なくなったときに(喑風失音) 生の梨をすりつぶして絞った汁を、1日2回飲む。
熱がこもって落ち着かない子どもに 消梨を3個切って水で煮出し、その煮汁でお粥を炊いて食べさせる。
目の充血や痛みに 梨の絞り汁に黄連(生薬)を浸し、その汁を目に点す民間療法も記録されています。
胃が弱って食べ物が通らないときに(反胃転食) 大きな雪梨に丁香(クローブ)を刺し込み、濡れた紙で幾重にも包んで蒸し焼きにして食べる。
これらはあくまで古典に記された伝統的な民間療法であり、現代の医療に置き換わるものではありませんが、梨が咳・喉・目・胃など、体のさまざまな不調に寄り添う存在として親しまれてきたことがよくわかります。
実は使える! 花・葉・樹皮
意外に知られていませんが、『本草綱目』では梨の実だけでなく、花・葉・樹皮についてもそれぞれ効能が記されています。
- 花:顔にできる黒ずみやシミを取り除く効果があるとされ、李の花と合わせて用いる処方が紹介されています。
- 葉:吐き気や下痢が止まらない霍乱の症状に、煮汁として服用。せんじて飲むと風邪の症状にも良いとされ、子どもの寒疝(お腹の冷えによる痛み)や、毒キノコに当たったときの解毒にも使われました。
- 樹皮(木皮):傷寒(急性熱性疾患)や流行性の熱病に効くとされ、甘草などと合わせた処方が記録されています。
果実だけでなく木全体が生活の中で活用されていたことが伝わってきます。
秋の養生としての梨 ― 現代への継承
東洋医学(薬膳)の考え方では、秋は「肺」が乾燥によってダメージを受けやすい季節とされています。空気の乾燥は喉や肌の乾燥、空咳につながりやすく、そんな季節にこそ梨は理にかなった食材とされてきました。
- 生食:そのまま食べることで、体にこもった余分な熱を冷ます
- 蒸し梨(シロップ煮):梨の芯をくりぬき、氷砂糖やハチミツ、川貝母(漢方薬)などを詰めて蒸すことで、空咳を鎮める昔ながらの家庭療法として親しまれてきました
これは前回ご紹介した「潤肺清心」「生津止渇」といった梨の性質と一致しており、『本草綱目』の時代から続く知恵が、今も変わらず暮らしの中に息づいていることを感じさせてくれます。

シリーズを振り返って
3回にわたってご紹介してきたように、梨は単なる甘くみずみずしい果物ではなく、
- 産地や品種によって格付けされる文化的な存在であり(第1回)
- 肺を潤し熱を鎮める、理にかなった薬効を持つ食材であり(第2回)
- 実だけでなく花・葉・樹皮までも生活の知恵として活用されてきた(第3回)
という、奥行きのある存在であることがおわかりいただけたのではないでしょうか。
ただし『本草綱目』が繰り返し強調しているように、梨は体を冷やす性質を持つため、食べ過ぎには注意が必要です。とくに冷え性の方や、体力の落ちている方は、量を控えめにしながら、秋の乾燥対策として上手に取り入れてみてください。
(本シリーズは中国明代の医薬書『本草綱目』の記述をもとに構成しています。伝統医学における知見であり、現代医学的な効能を保証するものではありません。)


