皆様、こんにちは。「和み座」です。
前回の第一章では、夏という季節の持つエネルギーと『黄帝内経』の教えてくれる根本の姿勢についてお伝えいたしました。
第二章となる今回は、夏の暑さが私たちの身体と心にどのような影響を与えるのか、そしてそれを和らげるための具体的なお食事や過ごし方の知恵を深掘りしていきましょう。
1. 夏の主役は「火」と「心(しん)」
東洋医学の根幹である「陰陽五行説」において、夏は五行の「火」に属します。 火は温かく熱を持ち、上へ上へと燃え広がる性質を持っています。そして、人間の体内でこの「火」の性質と深く繋がっているのが「心(しん)」です。
東洋医学でいう「心」には、ふたつの大きな役割があります。
- 血脈(けつみゃく)を主る:全身に血液を巡らせ、栄養を届ける働き(心臓のポンプロール)。
- 神志(しんし)を主る:人の精神、意識、思考活動、心を安定させる中心的な働き。
人体にとって大切な要素である「精・気・神」のうち、「神(精神の安らぎや意識の明瞭さ)」を優しく包み込んでコントロールしているのが「心」なのです。
2. 夏の悪魔「暑邪(しょじゃ)」がもたらす不調
夏になると気温が著しく上がり、自然界の過剰な熱が「暑邪(しょじゃ)」となって体内に侵入しやすくなります。すると「心」が傷つき、以下のような症状が現れやすくなります。
- 熱が上に昇る(上炎):顔のほてり、頭重感、ダラダラと止まらない汗、激しい喉の渇き。
- 水分(津液)とエネルギー(気)の消耗:汗とともに身体の大切な潤いと「気」が漏れ出してしまう気随津脱(きずいしんだつ)が起き、夏バテ、息切れ、強い脱力感を惹き起こします。
- 精神の乱れ(心煩):心が落ち着かずイライラする、夜寝付きにくい、夢を多く見る、情緒が不安定になる。
また、日本の夏は非常に湿度が高いため、暑さだけでなく「湿邪(しつじゃ)」も重なります。これにより胃腸(脾胃)が弱り、食欲不振や体が重だるいといった不調が重なってしまうのです。
3. 心を養う「安神養心」と「清熱解暑」のお食事
こうした夏の不調を防ぐためのキーワードが、「安神養心(あんじんようしん:心を養い精神を静める)」と「清熱解暑(せいねつげしょ:余分な熱と暑さを取り除く)」です。
苦味(にがみ)の食材で熱を吹き飛ばす
中国には「小暑吃苦(小暑の時期には苦味を食べる)」という慣わしがあります。苦味を持つ食材には、体内の過剰な熱を冷まし、胃腸の働きを助ける力があります。
- 体を程よく冷ます苦味食材(苦寒・苦涼性) ゴーヤ(苦瓜)、セロリ、レタス、アスパラガス、緑茶、菊花茶など。 ※特にゴーヤや瓜類は熱を覚まし余分な水分を排出してくれますが、お腹が冷えやすい方は摂り過ぎに注意しましょう。
- 心を静める安神食材 百合根(ゆりね)、ハスの実、なつめ、竜眼肉(りゅうがんにく)など。
【夏におすすめの薬膳分類】
・清熱解暑(熱を払う) :トマト、ナス、冬瓜、セロリ、緑豆、菊花
・生津止渇(潤いを生む):きゅうり、西瓜(すいか)、メロン、とうもろこし
・安神養心(心を鎮める):百合根、ハスの実、なつめ
イライラや熱っぽさを感じた時は、緑豆を柔らかく煮て少量の氷砂糖を加えた「緑豆湯(りょくとうとう)」などを冷やしていただくのも、とても素晴らしい知恵です。
4. 潤いを守る水分の摂り方
「汗をかくから水分を摂る」ことは大変重要ですが、冷たい飲みものをガブガブと一気に飲んでしまうと、内臓を急激に冷やして胃腸の「気」を傷めてしまいます。
- 常温または温かいものを、少しずつこまめに飲むのがコツです。
- おすすめのお茶 日常にはカフェインがなく身体に優しい「麦茶」や、汗で失われたミネラルと塩分を補える「昆布茶」が最適です。昆布茶をぬるま湯で薄めて飲むと、市販のスポーツドリンクよりも優しく身体に染み渡ります。
5. 旬の「麺類」と薬味の魔法
中国には「夏至吃面(夏至には麺を食べる)」という言葉もあります。小麦にはビタミンB群が豊富に含まれており、精神を安定させ疲労を回復する手助けをしてくれます。
日本の「そうめん」や「冷やし中華」も理にかなった夏の食文化ですが、氷水で冷やし過ぎた麺ばかり食べているとお腹が冷えて下痢を起こしやすくなります。 食べる際は、ショウガ、ミョウガ、シソ、ネギといった温性(身体を温める)の薬味を添えて、冷えと温かさのバランスを上手に調えてあげてくださいね。
無理に辛いものを食べて汗をかこうとしたり、脂っこいものでスタミナをつけようとすると、かえって体内に余分な熱や湿気がこもり、胃腸を疲弊させてしまいます。あっさりと消化の良いお粥や、旬の野菜を中心に身体の声を聴きながらいただくことが一番の薬となります。

次回【第三章】では、過酷な夏を乗り切り、次の季節へと健康をつなぐための「お生活(暮らし)の作法」と「冬病夏治」の考え方についてお話しいたします。
どうぞ、ご自身の身体を温かな眼差しで労わってあげてくださいね。


