― 宮廷料理が教える「夏を養う知恵」―

皆様、お久しぶりでございます。チャングムでございます。
こうして再び、皆様にお目にかかれる日が来ようとは、思ってもみませんでした。あれから、もう20年——。宮廷を離れ、長い月日が流れました。それでも、私が学び、身につけてきた養生の知恵は、少しも色褪せることなく、私の中に息づいております。
宮廷で過ごした日々、私は幾度となく思い知らされました。人の身体を守るのは、大きな薬でも、特別な治療でもない。毎日の食事、そのひとつひとつの積み重ねなのだ、と。医女として、そして料理人として学んだその教えを、こうしてまた皆様にお伝えできること、これほど嬉しいことはございません。
長い時を経てもなお、こうして受け継いでいけるものがある。そのことに、私は深く感謝しております。どうか、これから始まる物語に、しばしお付き合いくださいませ。
さて——夏になると、多くの人が「暑さに勝とう」とします。冷たい飲み物を一気に飲み干し、冷房の効いた部屋にこもり、食欲がないからと食事を抜く。けれど宮廷の医女たちは、まったく逆の考え方をしていました。夏の暑さは敵ではなく、身体を育てる季節の力だ、と。
夏は陽気を養う季節
東洋医学では、夏は一年のうちでもっとも「陽気」——身体を温め、巡らせる力——が盛んになる季節とされます。この陽気は、外の暑さに逆らうものではなく、暑さとともに育つものです。汗をかき、血の巡りが良くなり、代謝が高まる。それは身体が正しく「夏をしている」証拠でもあります。
問題は、この陽気を無理に閉じ込めてしまうことです。冷たいものを摂りすぎたり、冷房で身体を急に冷やしたりすると、せっかく育とうとしている陽気が押さえつけられ、かえって夏バテのような不調を招いてしまいます。
汗は津液であり気でもある
宮廷の医女たちは、汗をただの水分とは考えませんでした。汗は「津液」:身体を潤す大切な液であり、同時に「気」:生命のエネルギーでもあると考えられていたのです。
つまり、汗をかくということは、潤いと気力を同時に手放しているということ。夏に疲れやすいのは、汗によってこの二つが少しずつ流れ出ているからだと、宮廷では理解されていました。だからこそ、汗をかいた後には、ただ水を飲むのではなく、津液と気を同時に補うような食事が重んじられたのです。
冷たい物の摂り過ぎは胃腸を弱らせる
暑い日には、誰もが冷たいものに手を伸ばしたくなります。けれど宮廷の教えでは、胃腸は「土」の性質を持ち、温かさを好むとされました。冷たいものが度を越すと、胃腸の働きが鈍り、食欲不振や下痢、だるさといった夏特有の不調を招きます。
面白いことに、これは今でいう「胃腸の冷えによる代謝低下」とよく似た考え方です。宮廷の台所では、冷たい料理を出すときも、必ず生姜やねぎといった温性の薬味を添えることで、胃腸への負担を和らげる工夫がされていました。
「食は薬の始まり」
これは宮廷医術のもっとも大切な考え方のひとつです。病になってから薬を飲むのではなく、日々の食事によって病になりにくい身体を育てる。これが「治未病」——病気になる前に治す——という発想です。
夏の養生とは、特別な薬草を煎じることではありません。旬の食材を、その性質を知ったうえで、正しく食べること。それだけで、身体は大きく変わっていきます。
暑さと争わず、身体を整える
暑さに勝とうとするのではなく、暑さとともに生きる身体をつくる。これが宮廷の夏養生の根本にある考え方です。次回からご紹介する五味子茶、参鶏湯、緑豆——どれも「熱と戦う」ための料理ではなく、「熱とともにある身体を育てる」ための料理です。
チャングムの養生ことば
「身体は一日では変わりません。 今日のお食事が、明日の元気を育てます。」



