皆様、こんにちは。「和み座」です。
夏の養生法をお届けしてきた連載も、いよいよ最終章となりました。 第一章で「自然の巡りと調和すること」、第二章で「お食事による心の安定と清熱」についてお伝えしてまいりましたが、最後の章では「日々の暮らし方の工夫」と、東洋医学ならではの奥深い考え方である「冬病夏治(とうびょうかじ)」についてお話しいたします。
1. 殺人的な日差しから身を守る「避暑」の作法
中国には「大暑負荷晒太陽(大暑の時期は太陽の下に身を晒してはならない)」という教えがあります。
現代の夏の日差しは、昔以上に強烈で危険を伴います。長時間の直射日光や炎天下での無理な作業は、体内の気と津液を激しく損傷させ、命に関わる熱中症を引き起こします。
- 外出時は日傘や帽子を必ず着用しましょう(日傘を差すだけで体感温度はぐっと下がります)。
- できる限り日陰を選んで歩き、猛暑の際のお庭の草むしりや運動は、早朝や夕方の涼しい時間帯に行いましょう。
2. 夏だからこそ落ち入る「冷え」の罠
東洋医学の教えに「春夏養陽(しゅんかようよう)」という言葉があります。「春と夏は、体内の陽気(身体を温め巡らせるエネルギー)を大切に育て守りなさい」という意味です。
しかし現代の暮らしはどうでしょうか。冷房の効きすぎた部屋、キンキンに冷えた飲料やアイスクリーム……。外は猛暑でも、身体の内側や足元は悲鳴を上げるほど冷え切っている方が非常に増えています。
お腹(お臍の周り)だけは絶対に冷やさないでください。
お腹が冷えると「脾胃(消化器系)」の働きが衰え、万病の元となります。 冷房の効いた室内やスーパーの生鮮食品売り場などで冷えを感じる方は、夏であっても薄手の腹巻を巻いたり、膝掛けを活用しましょう。女性の生理痛や、お子様の寝冷え防止にも、お腹を守ることが最も大切です。
湯船に浸かって一日をリセットする
暑いからとシャワーだけで済ませず、一日の終わりにはぬるめのお湯にゆっくりと湯船で浸かりましょう。 エアコンで強ばった血管が開き、滞っていた血流がスムーズになることで、身体に溜まった熱が優しく発散され、自律神経も安らぎます。お気に入りの和漢ハーブや入浴剤を使った「芳香浴」も、心を解きほぐすのに大変効果的です。
3. 感情を穏やかに保つ「安寧(あんねい)」の心
暑さが極まると、気(エネルギー)が頭へと昇りやすくなり、ちょっとしたことでイライラしたり、ソワソワと落ち着かなくなったりします。古代から「夏の猛犬には近づくな」と言われますが、人間もまた、暑さによって気が立ちやすくなるものです。
気が上へと激しく昇ると、血圧が上昇し、お身体に大きな負担がかかります。
こんな時こそ、「心(こころ)の安寧」を意識してみましょう。 完璧を求めず、何事もゆったりと受け止め、怒りの感情が湧き上がったら深く息を吐き出す。穏やかで朗らかな笑顔で過ごすこと自体が、実はどんな薬よりも強力な「心臓を守る養生」になるのです。
4. 夏の陽気で冬の病を治す「冬病夏治(とうびょうかじ)」
東洋医学には、非常にユニークで合理的な治療法があります。それが「冬病夏治(とうびょうかじ)」です。
これは、「冬場に悪化しやすい冷え症、喘息、慢性鼻炎、関節痛などの持病を、自然界の陽気が一年で最も旺盛になる『夏』のうちに治しておこう」という智慧です。
特に中国では、夏至の後のもっとも暑い時期(初伏・中伏・末伏を合わせた約30〜40日間)を「三伏天(さんふーてん)」と呼び、この期間に背中のツボ(督脈など)へ温かいお薬を貼る「三伏貼」や、お灸を据える「三伏灸」を行う風習があります。
太陽のエネルギーが溢れる夏に身体を温め、冷えの根っこを退治しておくことで、寒風が吹く冬を笑顔で迎えられるようになるのです。
日本でも土用の丑の日に鰻を食べる習慣がありますが、中国でも「初伏には餃子、中伏には麺、末伏には卵焼きクレープ」を食べて元気を蓄える伝統があります。季節の節目に体調を整える意識は、国を超えて受け継がれてきた愛の形ですね。
5. 食中毒に気をつけて、健やかな夏を
高温多湿な日本の夏は、カビや食中毒菌も活発になります。 食材はこまめに冷蔵庫へ入れ、梅干しの持つ抗菌力を借りたり、お部屋の換気を良くしてダニやカビを防ぐことも、身の回りを清らかに保つ大切な養生です。

おわりに 〜和み座からのメッセージ〜
東洋医学の根本には「天人合一(てんじんごういつ)」――人間は自然の一部であり、自然の営みと調和して生きることが最高の幸せである、という考え方があります。
- 旬の新鮮な恵みを、感謝とともにいただく。
- 冷たいもの・刺激物を控え、お腹を温かく保つ。
- 太陽とともに起きて適度に身体を動かし、 夜は静かに眠る。
- 怒りを手放し、心穏やかに朗らかに過ごす。
どれも特別なことではなく、私たちの先祖が大切に繋いできてくれた優しい暮らしの知恵ばかりです。
皆様がこの夏を健やかに、そしてお心安らかに乗り切られますよう、心より祈っております。どうぞ、ご自身のお体を優しく愛でてあげてくださいね。


